タクシーの地理試験廃止|結論

この記事の結論

タクシー運転者の地理試験は、2024年(令和6年)2月29日付の国土交通省令第15号で廃止されました。国土交通省の通達により、2024年2月29日以降に実施する試験から地理科目はなくなっています。
廃止の理由は、試験内容がカーナビの普及した現状に必ずしも合わず、合格率が5割程度と難しかったため(交通政策審議会の中間とりまとめ)。2024年3月には雇入れ時の初任研修の「10日間」という期間要件も撤廃されました。
ただし試験そのものがなくなったわけではありません。指定地域では今も「法令・安全・接遇」の試験(45問)があり、東京では36問以上(正答率80%)で合格、合格証の有効期限は2年です。

かつて東京・横浜・大阪などでタクシー運転者になるには、二種免許とは別に地理試験に合格する必要がありました。地図を見て交差点や施設の位置を答える問題が出され、未経験者にとって大きな壁でした。この地理試験が2024年に廃止され、「地理を覚えなくてもタクシー運転者になれるのか」「今は何の試験があるのか」と疑問を持つ人も多いはずです。

この記事では、国土交通省の中間とりまとめと通達、東京タクシーセンターの案内、全国ハイヤー・タクシー連合会(全タク連)の資料という一次情報だけで、廃止の経緯、今ある試験の中身、運転者登録の流れを整理します。

地理試験とは何だったか|運転者登録制度と13の指定地域

地理試験は、二種免許の試験(警察が行う運転免許試験)とは別のものです。タクシー業務適正化特別措置法に基づく「輸送の安全及び利用者の利便の確保に関する試験」の1科目で、法人タクシー運転者として登録するために必要でした。

国土交通省の報道発表(2015年9月30日)によると、2015年10月1日の改正法施行で、それまで主な政令指定都市(13地域)で実施していたタクシー運転者登録制度が全国に拡大され、全国で運輸局長が認定する講習(法令、安全、接遇及び地理)を修了して登録を受けないと法人タクシーに乗務できなくなりました。あわせて13の指定地域(札幌、仙台、さいたま、千葉、東京、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸、広島、北九州、福岡)では、講習に加えて試験(法令、安全、接遇及び地理)の合格が必要になりました。同発表には「東京、横浜、大阪では、既に地理試験を実施」と書かれています。

廃止前の試験の形式は、国土交通省の通達(国自旅第346号の新旧対照表)で確認できます。

科目(廃止前)地域出題数合格基準設問方式
法令、安全及び接遇特定指定地域45問正答率80%以上○×方式・語群選択方式
法令、安全及び接遇指定地域45問正答率70%以上同上
地理特定指定地域40問正答率80%以上○×方式・語群選択方式・地図問題
地理指定地域20問正答率70%以上同上

地理科目では地図帳の持ち込みも認められず、指定地域が広い場合は地区別の地理試験を行うこともできるとされていました。片方の科目だけ合格した人には「科目合格通知書」が出る仕組みでした。

廃止の経緯|合格率5割・カーナビの普及・運転者の減少

国土交通省の交通政策審議会陸上交通分科会自動車部会「中間とりまとめ」(2024年5月15日)は、廃止の理由を次のように説明しています。東京、神奈川、大阪などの大都市部では、ドライバー登録に地理試験の合格が必要だったが、「試験内容は、カーナビゲーションが相当程度普及している現状には必ずしも適合しないような試験内容であり、合格率が5割程度と、タクシー運転者を目指す受験者には難しい内容であった」。このため、カーナビゲーションを搭載することを前提に地理試験を廃止することとし、2024年2月にタクシー業務適正化特別措置法に基づく省令が改正されました。

背景には運転者の大幅な減少があります。同じ中間とりまとめでは、令和元年度から令和4年度の間にタクシー運転者数が約5万人(約17%)減少し、地域・時期・時間帯によっては乗り切れない乗客やタクシー待ちの列が発生したと記されています。コロナ禍で減った二種免許保有の運転者を増やすため、デジタル行財政改革会議と規制改革推進会議の議論を踏まえて、地理試験の廃止と初任研修の期間要件の撤廃の2つが実施されました。

2024年前後の制度変更の年表

時期変更根拠・出典
2015年10月1日運転者登録制度を13地域から全国に拡大。13指定地域で試験(法令・安全・接遇・地理)を必須化国土交通省 報道発表
2022年5月13日第二種免許の受験資格を見直し(特例教習で19歳・経歴1年から受験可)警察庁
2024年2月29日地理科目を廃止(国土交通省令第15号)。同日以降の試験に適用東京タクシーセンター、国土交通省通達
2024年3月雇入れ時の初任研修の期間要件(10日間)を撤廃(道路運送法に基づく省令改正)中間とりまとめ
2024年4月自家用車活用事業(日本版ライドシェア)開始、改善基準告示の改正適用国土交通省、厚生労働省
2025年9月1日普通二種の教習を40時限から29時限に短縮警察庁

受験資格の見直しは19歳から取れる二種免許の特例教習、教習の短縮と費用は二種免許の費用と取り方で解説しています。

廃止後の運転者数の動き

中間とりまとめは、2022年の二種免許の受験資格見直しと取得費用の支援もあって、タクシー運転者の減少は令和5年に底を打ち、令和5年3月末から令和6年4月末までの約1年間で約3,400人増えたとしています。全タク連の「TAXI TODAY in Japan 2026」(第62回全国ハイヤー・タクシー事業者大会決議、2025年10月30日)では、地理試験の廃止や二種免許取得の効率化などを活用した結果、2025年9月末のドライバー数はコロナ禍発生直後の2020年3月末と比べて約87%まで回復したと記されています。警察庁の運転免許統計でも、普通二種免許の保有件数は令和3年末の67,611件から令和7年末の169,395件へと増えています。

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今ある試験|「法令・安全・接遇」45問の中身

地理科目がなくなった後も、指定地域では「輸送の安全及び利用者の利便の確保に関する試験」が続いています。国土交通省の通達(2024年2月29日改正後)で定められた現在の形式は次のとおりです。

項目特定指定地域指定地域
科目法令、安全及び接遇(地理は廃止)
出題数45問(法令・安全・接遇それぞれ概ね15問程度)
設問方式文章による○×方式と語群選択方式
配点・判定1問1点。分野ごとの最低点は設けず、3分野の合計点で判定
合格基準正答率80%以上正答率70%以上
試験時間60分
実施回数各地域で原則として毎月2回以上
その他講習テキストの持ち込み不可。試験問題は持ち帰り可(これにより問題を公表)

他の指定地域(特定指定地域を含む)の合格証を持っている人は、その写しを添えて申請すれば試験の免除を受けられます(タクシー業務適正化特別措置法施行規則第39条の2)。

東京の場合|45問・36問以上で合格、手数料3,400円

東京タクシーセンターの案内では、東京特定指定地域(特別区、武蔵野市及び三鷹市)でタクシー運転者になるには、同センターが事務を代行する「輸送の安全及び利用者の利便の確保に関する試験」(タクシー事業に係る法令、安全及び接遇)に合格しなければなりません。筆記試験で45問が出題され、合格基準は36問以上の正解(正答率80%)、合格証の有効期限は合格日から2年間です。

受験の方法は、事業者の申し込みによる新規講習時の受験と、予約制の一般受験・再試験があります。一般受験と再試験は月・火・金曜日に同センターで行われ、試験手数料は3,400円です。予約は原則として実施日の2週間前から受け付けています。出題範囲は、道路運送法・タクシー業務適正化特別措置法・道路交通法などの関係法令、標準運送約款、東京地域における交通事故の発生状況、交通事故の防止と事故発生時の措置、過労運転の防止と健康管理、タクシー運転者の心構えと接遇、高齢者・障害者等の乗降時の対応などです。

運転者登録までの流れ|東京の例

東京タクシーセンターによると、東京特定指定地域の法人タクシー運転者は、タクシー業務適正化特別措置法により同センターへの登録が定められており、運転者証の交付を受けて車内に表示しなければ営業できません。二種免許を取ってから乗務するまでの流れは次のとおりです。

  1. 二種免許を取る:指定教習所の卒業または試験場での直接受験。直接受験については二種免許の一発試験を参照。
  2. タクシー会社に雇用される:会社の養成制度で二種免許を取る場合は、入社後に1と並行して進む。
  3. 新規講習と試験:東京タクシーセンターの新規講習は3日間(9時〜17時)。講習時に試験を受けられる。
  4. 登録申請:必要書類をそろえて申請し、運転者証の交付を受ける。
  5. 乗務開始:運転者証を車内に表示して営業する。
法人運転者の新規登録に必要なもの(東京)備考
登録申請書(第二号様式)運転免許証を提示、写真1枚を添付
住民票の写し個人番号の記載がないもの、6か月以内
雇用条件及び雇用契約証明書会社が作成
試験の合格証の写し合格した日から2年以内(2024年2月28日以前の受験者は「法令、安全及び接遇」の科目合格通知書の写しでも可)。または運転経歴書
講習修了証の写し講習終了日から2年以内
運転者証交付申請書(第9号様式)手数料3,740円

登録は、登録の取消処分を受けたとき、40日以上の運転免許停止処分や取消処分を受けたとき、運転者証が返納されてから2年を経過したとき、運転免許証が失効したときなどに消除されます。会社を移る場合も手続き(手数料1,870円)が必要です。

地理はもう覚えなくていいのか|研修とカーナビの役割

試験からは外れましたが、地理の知識が不要になったわけではありません。地理試験の廃止は「カーナビゲーションを搭載することを前提に」したもので、地理は研修と日々の乗務で身につける位置づけに変わりました。

  • 東京タクシーセンター:法人事業者向けに「新人地理基礎研修」(1日)を実施。2024年10月発行の「地理科目を含めた過去問題例集」も案内しています。
  • 日本交通:全車両にカーナビを搭載。研修期間中に都内のよく使う道を学び、配属後も勉強会で売上につながる地域やルートを学べると説明。
  • 大和自動車交通:全車カーナビ付きで、研修期間中に基本的な都心の地理を学び、乗務開始後は「地理勉強会」などのフォローがあると説明。
  • 日の丸交通:地理試験の代わりに、タクシー運転者として最低限必要な地理研修プログラムを導入していると説明。

会社の研修の流れや費用負担は二種免許の養成制度、都市ごとの違いは都市別のタクシーの働き方で整理しています。地理に不安がある人は、研修の日数と同乗指導の有無を面接で確認するとよいでしょう。未経験から始められる求人は未経験歓迎の求人、東京の求人は東京都のタクシー求人から探せます。

出典・一次情報

本記事の制度・数字は、次の公表資料に基づいています(いずれも2026年10月13日閲覧)。

  • 国土交通省 交通政策審議会陸上交通分科会自動車部会「中間とりまとめ」(令和6年5月15日) mlit.go.jp(PDF)
  • 国土交通省 報道発表「タクシー運転者登録制度を全国に拡大します」(平成27年9月30日) mlit.go.jp
  • 国土交通省 物流・自動車局旅客課長通達「『タクシー業務適正化特別措置法施行規則第39条第1項に規定する輸送の安全及び利用者の利便の確保に関する試験の実施について』の一部改正について」(国自旅第346号、令和6年2月29日。東北運輸局山形運輸支局の周知文書に別添) wwwtb.mlit.go.jp(PDF)
  • 公益財団法人東京タクシーセンター「輸送の安全及び利用者の利便の確保に関する試験」 tokyo-tc.or.jp/「登録手続きについて」 同/「研修・検定について」 同/試験の出題範囲 同(PDF)
  • 一般社団法人全国ハイヤー・タクシー連合会「TAXI TODAY in Japan 2026」 driver-roudou-jikan.mhlw.go.jp(PDF)
  • 警察庁「運転免許統計 令和7年版」 npa.go.jp(PDF)/「第二種免許等の受験資格の見直しについて」 npa.go.jp
  • タクシー会社の公式採用ページ:日本交通 採用トップ/大和自動車交通 採用よくあるご質問/日の丸交通 採用情報

地域ごとの手続きについて

試験の実施機関・日程・手数料と登録の手続きは地域ごとに異なります。本記事の手続きは東京の例です。東京以外の指定地域で働く場合は、管轄の地方運輸局や登録実施機関の最新の案内で確認してください。