タクシーの適性診断・初任診断|結論
この記事の結論
タクシー会社に新しく入った運転者は、運転者に選任される前に国土交通大臣が認定した「初任診断」を受けることが法令で決まっています(旅客自動車運送事業運輸規則第38条第2項、国土交通省告示第1676号)。
自動車事故対策機構(ナスバ)の初任診断は手数料4,800円(税込)・約1時間40分(ナスバネットで実施した場合)で、判断動作のタイミング、動作の正確さ、注意の配分、安全運転態度、危険感受性、周辺視野・動体視力などを測り、カウンセラーが結果に基づいて助言・指導します。
このほか、65歳以上は適齢診断(4,800円)、事故を起こした運転者は特定診断I(9,300円)・II(29,900円)が義務です。
雇入れ前3年以内に初任診断を受けた人は受け直す必要がありません。国土交通省の一覧には、ナスバを含め140の認定機関が掲載されています(うち旅客の診断を行う機関は127)。
タクシー会社の研修日程を見ると、「事故対策機構」「適性診断」という言葉がよく出てきます。これは運転免許の試験とは別に、バス・タクシー・トラックなど事業用自動車の運転者に義務づけられた診断です。
この記事では、e-Govの法令、国土交通省の告示とページ、ナスバの公式案内という一次情報だけを使い、適性診断の種類、受ける時期、料金と所要時間、測る項目、受け方を整理します。研修全体の流れはタクシーの新人研修の内容で解説しています。
適性診断とは|運輸規則で会社に義務づけられた診断
旅客自動車運送事業運輸規則第38条第2項は、旅客自動車運送事業者(タクシー会社など)は、次の運転者に特別な指導を行い、かつ「国土交通大臣が告示で定める適性診断であつて第四十一条の二及び第四十一条の三の規定により国土交通大臣の認定を受けたものを受けさせなければならない」と定めています。
- 死者または負傷者が生じた事故を引き起こした者
- 運転者として新たに雇い入れた者
- 乗務しようとする事業用自動車について、その会社での必要な乗務の経験を有しない者
- 高齢者(65才以上の者)
運輸規則第48条では、運転者に適性診断を受けさせることが運行管理者の業務の一つに挙げられています。受けさせる義務を負うのは会社で、運転者が自分で判断して受けるものではありません。ナスバのリーフレットは、適性診断を「ドライバーの性格、安全運転態度、認知・処理機能、視覚機能など心理及び生理の両面から個人の特性を把握し、安全運転に役立つようきめ細かなアドバイスを行」うものと説明しています。
適性診断の種類と受ける時期|義務4種類・任意3種類
ナスバの診断ごとの案内とリーフレットから、種類・対象・時期・手数料・時間をまとめます(手数料は税込、時間はナスバネットで実施した場合)。
| 種類 | 区分 | 対象(タクシーの場合) | 受ける時期 | 手数料 | 時間 |
|---|---|---|---|---|---|
| 初任診断 | 義務 | 新たに雇い入れた運転者(雇入れ前3年間に初任診断を受けた人、個人タクシー事業者を除く) | 運転者として選任する前 | 4,800円 | 約1時間40分 |
| 適齢診断 | 義務 | 65歳以上の運転者 | 65歳に達した日以後1年以内に1回、75歳までは3年以内ごとに1回、75歳に達した日以後1年以内に1回、その後1年以内ごとに1回 | 4,800円 | 約1時間40分 |
| 特定診断I | 義務 | 死亡・重傷事故を起こし、事故前1年間に事故がない人/軽傷事故を起こし、事故前3年間に事故がある人 | 事故後、再び乗務する前 | 9,300円 | 約2時間 |
| 特定診断II | 義務 | 死亡・重傷事故を起こし、事故前1年間に事故がある人 | 事故後、再び乗務する前 | 29,900円 | 約5時間 |
| 一般診断 | 任意(推奨) | 普通免許以上を持っていれば誰でも | 少なくとも2年以内に1度の周期を推奨 | 2,400円 | 約1時間20分 |
| 特別診断 | 任意(推奨) | 一般診断を受けた人 | 任意 | 10,300円 | 公表なし |
| カウンセリング付き定期診断 | 任意(推奨) | 一般診断を受けた人 | 任意 | 4,800円(一般診断+2,400円) | 公表なし |
国土交通省の「運転者に対する教育」のページでは、診断時間を一般診断約2時間、初任診断・適齢診断約2時間20分、特定診断I約2時間40分、特定診断II約5時間と書いており、ナスバの案内(ナスバネットで実施した場合の時間)と一部異なります。受診する機関と方法によって時間が変わると考えておくのが安全です。
タクシー運転手の求人をチェック
求人一覧を見る初任診断|誰が・いつ受けるか
国土交通省告示第1676号は、運転者として新たに雇い入れた者に「当該旅客自動車運送事業者において事業用自動車の運転者として選任する前に初任診断を受診させる」と定めています。タクシーの場合、次の人は初任診断の対象から除かれます。
- 雇入れの日前3年間に初任診断を受診したことがある人
- 個人タクシー事業者
つまり、別のタクシー会社やバス会社から3年以内に転職してきた人で、前の会社で初任診断を受けている人は受け直す必要がありません。一方、3年より前に受けた人や、受けたことのない未経験者は、入社後の研修期間中に受けることになります。受診した年月日と結果を記録した書面は乗務員台帳に添付することになっています。
大手の研修日程にも組み込まれています。日本交通は「新人乗務員講習・営業所内教習・事故対策機構」(10日間)、日の丸交通は「自動車事故対策機構にて研修」として「運転シミュレーションなどゲーム方式のプログラムを通して自身の運転特性を把握」すると説明し、帝都自動車交通は「適性診断で各人の得意・不得意を見い出して、その人の特性に合わせたアドバイスを行」うと書いています。
初任診断の結果は「初任運転者への指導」に使われる
同じ告示は、初任運転者に対して法令・構造と日常点検・旅客の安全・危険の予測と回避・安全装置の5項目を合計6時間以上指導することも求めており、「適性診断を受診させた場合には、その結果判明した当該運転者の運転行動の特性も踏まえ、当該運転者と話し合いをしつつきめ細かな指導を実施する」としています。診断は受けて終わりではなく、指導の材料として使われます。指導の中身はタクシーの新人研修の内容にまとめています。
何を測るのか|ナスバネットの測定項目と診断票
ナスバの適性診断は、パソコンを使う測定システム「ナスバネット」で行います。ナスバは、診断の種類に応じた測定項目メニューが受診者に自動で案内され、コンピュータからの音声・動画で操作方法を説明し、コンピュータグラフィックスを使ったシミュレーション運転による測定などが盛り込まれていると説明しています。リーフレットに載っている測定項目は次のとおりです(診断の種類によって項目が異なります)。
| 区分 | 測定項目 |
|---|---|
| 機能測定 | 判断動作のタイミング、動作の正確さ、注意の配分、安全運転態度、危険感受性 |
| PC視覚機能測定テスト | 周辺視野、動体視力、眼球運動 |
| 夜間視力 | 適齢診断のときだけ、別の測定器で実施 |
| 問診測定 | TUPIと記載された質問形式の測定 |
測定のあとは「適性診断票」が発行され、優良な点、注意が必要な点、前回受診時からの変化(同じ事業者で受診した場合)が記載されます。事業者向けには、受診者の優れた点や注意を促してほしい点をまとめた「指導要領」が付きます。一般診断以外の診断では、ナスバのカウンセラーがカウンセリング手法で結果に基づく助言・指導を行います。
「落ちる」ことはあるのか
ナスバと国土交通省の公表資料には、適性診断の合格・不合格の基準は書かれていません。運輸規則と告示が求めているのは「受けさせること」と結果を踏まえた指導で、資料上の説明は、長所と注意点を把握して助言・指導に使うものとなっています。運転免許の適性試験(視力や深視力)とは別物です。二種免許の視力の基準は深視力検査で解説しています。
診断結果の活かし方|会社の指導と自分の運転の見直し
告示の「一般的な指導及び監督」には「適性診断その他の方法により運転者の運転適性を把握し、個々の運転者に自らの運転行動の特性を自覚させる」という項目があり、診断結果は入社後の毎年の指導でも使われます。ナスバは運行管理者など指導する側向けに「適性診断活用講座」(受講料2,700円、診断結果の見方30分・活用方法30分・ロールプレイング2時間30分)も開いています。国際自動車は研修講師の中に「適性診断カウンセラー(運転行動に関するカウンセリング)」がいると採用ページに書いています。
運転者として受ける側にとっては、自分の運転のクセを数字で知る機会です。一般診断は普通免許以上を持っていれば誰でも受けられるとナスバは案内しているため、応募前に自分の特性を知っておきたい人は、最寄りの支所に問い合わせる方法もあります。
研修や診断の体制が整った会社を探す場合は、未経験OKの求人、二種免許養成制度ありの求人、65歳前後で働き方を考えている人はシニア歓迎の求人から探せます。求人全体はタクシードライバー求人、会社ごとの条件は国際自動車などの会社別ページにまとめています。
受け方と受診場所|ナスバの支所と140の認定機関
ナスバの適性診断は予約制です。ナスバの案内では、バス・タクシー・トラック等の法人事業者は営業所単位でIDとパスワードの発行を受け、インターネットの予約システムで申し込みます。予約は先着順で、各日の受診には定員があります。ナスバは各都道府県に主管支所・支所を置いており(リーフレットの一覧で50か所)、東京は墨田区錦糸の東京主管支所です。
支所に行く以外にも、次のような受け方が案内されています。
- 受診用パソコンのレンタル(有料):事業者の事務所で受診できる。ただしカウンセリングが必要な種類の診断では、別途ナスバカウンセラーによるカウンセリングが必要。
- 出張カウンセリング:日程を調整してカウンセラーが出張する。出張費用は手数料とは別に請求。
ナスバは年間約46万人が適性診断を利用していると公表しています。
ナスバ以外の認定機関|国土交通省の一覧
適性診断は、国土交通大臣の認定を受けた機関であればナスバ以外でも受けられます。国土交通省の「運転者に対する教育」のページにある適性診断認定機関一覧には、2026年10月14日の閲覧時点で140の機関が掲載されており(本記事で件数を数えたもの)、そのうち旅客(バス・タクシー)の診断の認定を受けている機関は127、特定診断IIまで行える機関はナスバを含めて6でした。多くは自動車教習所や運送事業者の研修施設で、タクシー会社では国際自動車株式会社(kmグループ赤坂ホスピタリティカレッジ、2015年2月18日認定)が旅客・貨物の初任診断・適齢診断・特定診断I・IIの認定を受けています。ナスバは旅客の認定を2002年2月1日に受けています。
どの機関で受けるかは会社が決めます。入社する会社がどこで受診させるかは、研修日程と一緒に確認してください。
入社後に受ける診断|適齢診断と特定診断
初任診断のあとも、年齢と事故歴によって診断が続きます。
| きっかけ | 診断 | あわせて行われる指導 |
|---|---|---|
| 65歳になった | 適齢診断(65歳に達した日以後1年以内、その後75歳まで3年以内ごと。65歳以上で新たに選任された場合は選任の日から1年以内) | 診断結果が判明してから1か月以内に、加齢に伴う身体機能の変化に応じた安全な運転方法を運転者が自ら考えるよう指導 |
| 75歳になった | 適齢診断(75歳に達した日以後1年以内、その後1年以内ごと) | 同上 |
| 死傷者が出る事故を起こした | 事故の内容と過去の事故歴に応じて特定診断IかII(再び乗務する前。やむを得ない事情がある場合は乗務開始後1か月以内) | 事故惹起運転者への特別な指導(タクシーは合計6時間以上、再び乗務する前) |
告示は、新たに雇い入れた運転者について、自動車安全運転センターの無事故・無違反証明書や運転記録証明書などで雇い入れる前の事故歴を把握し、事故惹起運転者に当たるのに特定診断を受けていなければ受けさせることも求めています。高齢の運転者の働き方と制度は60代のタクシー運転手で詳しく解説しています。
出典・一次情報
本記事の制度と数字は、次の公表資料に基づいています(いずれも2026年10月14日閲覧)。
- e-Gov法令検索「旅客自動車運送事業運輸規則」(昭和31年運輸省令第44号)第38条・第48条 laws.e-gov.go.jp
- 国土交通省「旅客自動車運送事業者が事業用自動車の運転者に対して行う指導及び監督の指針」(平成13年国土交通省告示第1676号) mlit.go.jp(PDF)/「運転者に対する教育」(適性診断の種類・適性診断認定機関一覧) mlit.go.jp
- 独立行政法人自動車事故対策機構(ナスバ)「初任診断」 nasva.go.jp/「適齢診断」 同/「特定診断I」 同/「特定診断II」 同/「一般診断」 同/リーフレット「安全運転への道しるべ 適性診断」 同(PDF)/「適性診断の予約について」 同/「適性診断の測定システム(ナスバネット)のご紹介」 同/「事故防止対策にナスバのサービスを活用しませんか」 同/「適性診断活用講座」 同
- タクシー会社の公式採用ページ:日本交通 未経験でも安心な研修制度/国際自動車 タクシードライバーの研修/日の丸交通 研修制度/帝都自動車交通 研修制度
手数料と認定機関について
手数料・診断時間はナスバの閲覧日時点の公表内容です。ナスバ以外の認定機関の料金は各機関に確認してください。認定機関の件数は国土交通省の一覧を本記事で数えたもので、一覧は随時更新されます。受診料を会社と本人のどちらが負担するかは法令に定めがなく、会社の規定によります。



