タクシーの歩合給の計算と足切り|結論
この記事の結論
タクシーの歩合給は「営業収入×歩合率」、足切りがある場合は「(営業収入-基準額)×歩合率+固定給」で計算するのが基本の形です。
国土交通省の懇談会資料は、固定給に「一定の営業収入(足切り)を上回った部分に一定の歩合率を乗じた歩合給」を加える形をA型賃金と整理しており、足切り額は各社まちまちだとしています。
歩合給でも時間外・深夜労働には割増賃金が必要で、歩合給の総額を総労働時間で割った額の0.25倍(休日は0.35倍)が上乗せされます。運賃収入と賃金の関係に段差(不連続点)がある「累進歩合制度」は廃止するよう求められています。
公式募集要項で歩合率を公表しているのは、日本交通(62%)や日の丸交通(61.81%・2025年11月度)など一部で、率の定義は公表されていないため、面接で計算式を具体的に確認することが欠かせません。
タクシーの求人では「歩合率○%」「足切りなし」「固定給+歩合給」といった言葉が並びますが、実際にどう計算されて給与になるのかは分かりにくいものです。歩合給の仕組みを知らないまま入社すると、売上と給与の関係を後から知って戸惑うことになります。
この記事では、国土交通省の「タクシー事業における賃金システム等に関する懇談会」の資料、厚生労働省の最低賃金と割増賃金の解説、労働基準法施行規則、最高裁判所の判決、タクシー会社の公式募集要項という一次情報だけを使い、歩合給の計算の型と、確認すべきポイントを整理します。入社直後の給与保証や改善基準告示の保障給はタクシーの給与保証の仕組みで詳しく解説しています。
タクシーの賃金の型|A型・B型・AB型
国土交通省の「タクシー事業における賃金システム等に関する懇談会」(2010年)の「これまでの議論の整理(案)」は、タクシー運転者の賃金体系を次の3つに分けて説明しています。全国ハイヤー・タクシー連合会(全タク連)の統計資料でも「B型賃金における最低保証額」「A型及びAB型賃金におけるベースアップ」という言い方が使われています。
| 型 | 懇談会資料の説明(要旨) | 賞与・退職金 |
|---|---|---|
| A型 | 月例賃金は固定給が中心。これに「一定の営業収入(足切り)を上回った部分に一定の歩合率を乗じた歩合給」が加算される | 一般産業と同様に賞与・退職金制度がある |
| B型 | 月例賃金はすべて歩合給 | 賞与分・退職金分も月例賃金に含めて支給。退職金制度はない場合がほとんど |
| AB型 | 賃金を営業収入に対する一定の支給率で支給する(A型から発生したものは、賞与も営業収入に対する歩合給になる) | 賞与が営業収入に連動する |
同じ「歩合給」でも、毎月の給与に歩合を集中させるのか、一部を賞与に回すのかで、月々の手取りと年収の配分が変わります。たとえば日の丸交通は採用ページで、給与体系は「完全歩合給」で基本給はなく(時間外・深夜の手当は法定通り別途支給)、「歩合の一部を積み立てるいわゆる『プール金』やボーナス制度は設けておりません」と説明しています。賞与の扱いはタクシーの賞与と退職金で詳しく扱っています。
歩合給の基本の計算式|国交省資料の2つの例
同じ懇談会に国土交通省が提出した資料「タクシー運転者に係る賃金規制の概要」は、歩合給の計算方法の例を2つ示しています。
| 例 | 計算方法 | 特徴 |
|---|---|---|
| 例1:全額歩合 | 賃金=運賃収入等×歩率(一定) | 売上がそのまま歩率に比例して賃金になる |
| 例2:固定給+足切り後の歩合 | 運賃収入等が基準額A以下:賃金=固定給 運賃収入等がAを超えた場合:賃金=(運賃収入等-A)×歩合(一定)+固定給 | 基準額Aまでは固定給だけ、Aを超えた部分にだけ歩合がつく |
例2の基準額Aが、求人や職場でいわゆる「足切り」と呼ばれるものです。法令上の用語ではなく、額や計算の対象は会社の賃金規程で決まります。懇談会の「主な意見」には、「固定給の額は、足切り額に連動しているが、足切り額は各社まちまちである」という指摘が記録されています。
実際の求人では、この2つを組み合わせたり、乗務回数や出勤日数で基準額を変えたりする形もあります。どの形でも、「売上がいくらなら給与がいくらになるか」を、自分が想定する売上の水準で具体的に計算してもらうことが、求人を比べる一番確実な方法です。
歩合の対象になる「営業収入」の範囲
歩合率をかける営業収入(営収)に何が含まれるかも会社ごとの規程で決まります。消費税を含むか、迎車料金や配車アプリの手配料・予約料金を含むか、チケットやクレジットカード決済の手数料を差し引くかによって、同じ歩合率でも支給額が変わります。公式募集要項でこれらを明示している例は確認できなかったため、面接で確認してください。配車アプリの料金の仕組みはタクシーの配車アプリの仕組みで解説しています。
タクシー運転手の求人をチェック
求人一覧を見る足切りと累進歩合制度の違い|「不連続点」があるかどうか
厚生労働省は、タクシー運転者の賃金制度について「累進歩合制度(トップ賞や奨励加給を含む。)は、長時間労働やスピード違反を極端に誘発するおそれがあり、交通事故の発生も懸念されることから、廃止してください」としています。同じリーフレット(「タクシー運転者の最低賃金について」)の図では、2つの違いを次のように説明しています。
| 区分 | 厚生労働省の説明 |
|---|---|
| 累進歩合給制 | 運賃収入と賃金の関係を表すカーブに不連続点がある |
| 一般の歩合給制 | 運賃収入と賃金の関係を表すカーブに不連続点がない |
国土交通省の資料は、通達(平成元年基発第93号)に基づき廃止を指導している「累進歩合制度」として、(1)水揚高等に応じて歩合給の額が非連続的に増減する累進歩合給、(2)最も高い者やごく一部しか達成できない水揚高を達成した者だけに支給するトップ賞、(3)水揚高を数段階に区分し、区分の額に達するごとに一定額を加算する奨励加給、の3つを挙げています。
前の章の例2のように、基準額を超えた部分に一定の歩合率をかける形は、売上が増えるにつれて賃金がなめらかに増える形です。一方で、売上が一定額に届くかどうかで歩合率そのものが切り替わり、賃金が段差のように跳ね上がる(下がる)形は、厚生労働省の図でいう不連続点がある形になります。面接で歩合の計算式を確認するときは、売上がある額を1円超えたときに給与がどう変わるかを聞くと、どちらの形か分かります。
歩合給と割増賃金・最低賃金|労働時間で割って計算する
歩合給の人にも、時間外・深夜・休日労働の割増賃金は必要です。労働基準法施行規則第19条第1項第6号は、出来高払制の賃金の1時間あたりの額を、「賃金算定期間において出来高払制その他の請負制によつて計算された賃金の総額を当該賃金算定期間における、総労働時間数で除した金額」と定めています。兵庫労働局はこれを次の式で示しています。
1時間当たりの割増賃金=出来高給(請負給)の総額÷その賃金算定期間の総実労働時間数×0.25(休日労働は0.35)
歩合給の総額には、働いた時間すべての「1倍分」がすでに含まれているため、割増分の0.25(休日は0.35)だけを上乗せする計算になります。厚生労働省の最低賃金のページにあるタクシー会社の例(Cさん)では、歩合給16万8,000円、総労働時間200時間、時間外30時間、深夜15時間の月について、時間外割増賃金6,300円、深夜割増賃金3,150円が歩合給とは別に支払われています(16万8,000円÷200時間=840円、840円×0.25×30時間=6,300円、840円×0.25×15時間=3,150円)。
同じページは、「歩合給の中に時間外及び深夜の割増賃金を含めている事業場」について、歩合給相当部分と割増賃金相当部分の区分が不明確で「適切とはいえない」と説明しています。
最高裁判決(2020年3月30日)|残業代を歩合給から差し引く規則
最高裁判所第一小法廷は2020年3月30日の判決(平成30年(受)908号)で、東京のタクシー会社の賃金規則について判断しました。判示事項は「歩合給の計算に当たり売上高等の一定割合に相当する金額から残業手当等に相当する金額を控除する旨の定めがある賃金規則に基づいてされた残業手当等の支払により労働基準法37条の定める割増賃金が支払われたとはいえないとされた事例」です。裁判要旨は、時間外労働等に伴い発生する残業手当等の額が「そのまま歩合給の減額につながり、歩合給が0円となることもある」などの事情の下では、割増賃金が支払われたとはいえないとしています。歩合の計算式の中で残業代が差し引かれていないかも、確認しておきたい点です。
最低賃金との比較|歩合給は「総労働時間」で割る
歩合給の人も、1時間あたりに直した賃金が都道府県の最低賃金を下回ることはできません。厚生労働省の最低賃金のページは、出来高払制の賃金の場合、「出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額を、当該賃金算定期間において出来高払制その他の請負制によって労働した総労働時間数で除した金額」を最低賃金(時間額)と比べるとしています。同ページのタクシー会社の2つの例をまとめると次のとおりです(最低賃金はいずれも例として時間額950円)。
| 例 | 賃金の内容(M月) | 1時間あたりの計算 | 判定 |
|---|---|---|---|
| Cさん(すべて歩合給) | 歩合給168,000円、総労働時間200時間(別に時間外・深夜の割増賃金) | 168,000円÷200時間=840円 | 最低賃金を下回る |
| Dさん(固定給+歩合給) | 固定給136,000円(所定170時間)、歩合給50,000円(総労働時間200時間) | 固定給部分800円+歩合給部分250円=1,050円 | 最低賃金以上 |
割増賃金は1時間あたりの額の計算には含めません。固定給は所定労働時間で、歩合給は総労働時間で割る点がポイントです。これとは別に、厚生労働省は歩合給制度を採る場合、労働時間に応じて固定的給与とあわせて「通常の賃金の6割以上」を保障する保障給を定め、かつ最低賃金額を上回ることを求めています。
歩合率を公表している会社の例
東京の大手タクシー会社の公式募集要項で、歩合率を数字で載せているのは次の2社でした(2026年10月閲覧)。
| 会社 | 給与の形(公式募集要項) | 公表している歩合率 | 賞与 |
|---|---|---|---|
| 日本交通 | 218,240円+歩合給 | 62% | タクシー乗務員の募集要項に記載なし |
| 日の丸交通 | オール歩合給(基本給なし、時間外・深夜手当は法定通り別途支給) | 61.81%(2025年11月度) | プール金・ボーナス制度なし(歩合給を全額毎月支給) |
どちらも、62%・61.81%が「営業収入に対する支給総額の割合」なのか「歩合給部分の率」なのか、営業収入が税込か税抜かといった定義は募集要項に書かれていません。日本交通は固定の218,240円に歩合給が加わる形、日の丸交通は基本給のないオール歩合給の形で、給与の組み立てが違うため、率の数字だけを並べて比べることはできません。国際自動車・大和自動車交通・帝都自動車交通の募集要項には歩合率の記載はありませんでした。5社の条件の一覧は大手タクシー会社の採用条件の比較にまとめています。
会社別の求人は日本交通・日の丸交通のページ、歩合給に慣れるまでの保証がある求人は給与保証ありの求人から探せます。
面接で確認したい歩合の計算のポイント
- 計算式そのもの:固定給の額、足切り(基準額)の有無と額、基準額を超えた部分の歩合率。
- 具体例での試算:「月の営業収入がいくらなら総支給額はいくらか」を2〜3通りの売上で示してもらう。
- 段差の有無:売上が基準額を1円超えたときに給与がどう変わるか(不連続点がないか)。
- 営業収入の範囲:税込か税抜か、迎車料金・アプリ手配料を含むか、決済手数料を差し引くか。
- 割増賃金の扱い:時間外・深夜の割増賃金が歩合給と区分して支払われるか。
- 賞与への配分:歩合の一部が賞与や積立に回るか(AB型の形か)。
- 運賃改定のとき:運賃が上がったときに歩合率が維持されるか。運輸局は運賃改定の際、歩合率の維持を求めています(タクシーの運賃改定と収入)。
給与全体から引かれる社会保険料や税の仕組みはタクシー運転手の手取り、年収を伸ばす要素はタクシー運転手の年収を上げる方法で解説しています。
出典・一次情報
本記事の制度と計算例は、次の公表資料に基づいています(いずれも2026年10月閲覧)。
- 国土交通省 タクシー事業における賃金システム等に関する懇談会「これまでの議論の整理(案)」(資料7、2010年) mlit.go.jp(PDF)/「タクシー運転者に係る賃金規制の概要」(資料7) mlit.go.jp(PDF)
- 厚生労働省「タクシー運転者の最低賃金について」(タクシー事業者向けリーフレット、平成28年3月。「タクシー運転者の賃金制度」の項) mhlw.go.jp(PDF)
- 厚生労働省 最低賃金制度「あなたの賃金を比較チェック」 saiteichingin.mhlw.go.jp
- 兵庫労働局「割増賃金について」 jsite.mhlw.go.jp
- 労働基準法施行規則 第19条 e-Gov法令検索
- 最高裁判所第一小法廷 令和2年3月30日判決(平成30(受)908、賃金請求事件) courts.go.jp
- 一般社団法人全国ハイヤー・タクシー連合会「『令和7年賃金構造基本統計調査』によるタクシー運転者の現況」(2026年10月6日付の【最新版】) taxi-japan.or.jp(PDF)
- 日本交通 タクシー乗務員募集要項 nihon-kotsu-recruit.jp/日の丸交通 採用情報 hinomaru.tokyo
計算例について
本記事の数値例は、厚生労働省の最低賃金のページに掲載された例をそのまま引用したもので、特定の会社の実際の給与ではありません。実際の歩合給の計算は各社の賃金規程によります。



