タクシーの点呼とアルコールチェック|結論
この記事の結論
タクシー会社は、乗務前と乗務後の毎回、運転者に点呼を行い、アルコール検知器で酒気帯びの有無を確かめることが法令で義務づけられています。
根拠は旅客自動車運送事業運輸規則第24条で、乗務前は「日常点検」「酒気帯びの有無」「疾病・疲労・睡眠不足などで安全に運転できないおそれの有無」を確認して指示を与え、乗務後は車両・道路・運行の状況の報告と酒気帯びの確認を行います。
点呼は対面が原則で、国土交通大臣が定める方法(遠隔点呼、業務前・業務後の自動点呼)なら対面と同等に扱われます。検知器の使用は2011年(平成23年)5月1日から義務で、点呼の記録は1年間保存です。
国土交通省の通達では、点呼での「酒気帯びの有無」は道路交通法の基準(呼気0.15mg/L)以上かどうかを問わないとされており、基準未満でもアルコールが残っていれば乗務させない運用が前提です。
タクシー乗務員の1日は、出庫前の点呼から始まり、帰庫後の点呼で終わります。求人票に「アルコールチェックあり」と書かれていなくても、法律上どの会社でも必ず行われている手続きです。
この記事では、e-Gov法令検索に掲載された旅客自動車運送事業運輸規則(以下「運輸規則」)、国土交通省の「旅客自動車運送事業運輸規則の解釈及び運用について」(以下「解釈通達」)、遠隔点呼・自動点呼の解説パンフレット、一般乗用旅客自動車運送事業者に対する行政処分等の基準という一次情報だけで、点呼のルールを整理します。1日の業務全体の流れはタクシー運転手の仕事内容と1日で解説しています。
点呼で確認されること|運輸規則第24条の中身
運輸規則第24条は、事業者が運転者に対して行う点呼の内容を次のように定めています。
| 点呼の種類 | 報告・確認する事項 | 根拠 |
|---|---|---|
| 乗務前(業務前)点呼 | (1)道路運送車両法の日常点検の実施またはその確認、(2)酒気帯びの有無、(3)疾病、疲労、睡眠不足その他の理由で安全な運転をすることができないおそれの有無。あわせて運行の安全を確保するために必要な指示を与える | 第24条第1項 |
| 乗務後(業務後)点呼 | 業務に係る事業用自動車、道路及び運行の状況の報告、酒気帯びの有無の確認。他の運転者と交替した場合は交替時の通告の内容も報告 | 第24条第2項 |
| 業務途中の点呼(中間点呼) | 一般貸切旅客自動車運送事業者(貸切バス)が夜間に長距離の運行をする運転者に対して行うもの | 第24条第3項 |
業務途中の点呼は条文上「一般貸切旅客自動車運送事業者」に限られており、解釈通達では対象を「実車運行する区間の距離が100kmを超える夜間運行」などと定義しています。タクシー(一般乗用旅客自動車運送事業)に法令上義務づけられている点呼は、乗務前と乗務後の2回です。
運転者の側にも義務があります。運輸規則第50条は、運転者に対し、点呼を受けて報告すること、酒気を帯びた状態にあるときや疾病・疲労・睡眠不足などで安全な運転ができないおそれがあるときはその旨を事業者に申し出ることを求めています。また第49条第2項は、乗務員が「酒気を帯びて乗務すること」を禁じています。事業者側も第21条第4項で「酒気を帯びた状態にある乗務員等」を運行の業務に従事させてはならないとされています。
点呼を行うのは営業所の運行管理者または補助者です。解釈通達では、補助者に点呼の一部を行わせる場合でも、運行管理者が行う点呼は点呼を行うべき総回数の少なくとも3分の1以上でなければならないとしています。運行管理者の資格と仕事は運行管理者(旅客)の資格の取り方で解説しています。
対面が原則|電話点呼・IT点呼・遠隔点呼・自動点呼の違い
運輸規則第24条第1項は、点呼を「対面により、又は対面による点呼と同等の効果を有するものとして国土交通大臣が定める方法」で行うと定め、「運行上やむを得ない場合」に限って電話その他の方法を認めています。解釈通達と国土交通省の解説パンフレット(令和7年11月)から、方法ごとの違いを整理すると次のとおりです。
| 方法 | 内容 | 主な条件 |
|---|---|---|
| 対面点呼 | 運行管理者等と運転者が営業所または車庫で向き合って行う | 原則の方法 |
| 電話その他の方法 | 携帯電話や業務無線などで直接対話して行う | 遠隔地で業務を開始・終了する場合など「運行上やむを得ない場合」に限る。車庫と営業所が離れている、早朝・深夜に点呼執行者が出勤していない、は該当しない。電子メールやFAXは不可で、運行中に行ってはならない |
| 旅客IT点呼 | 営業所と車庫の間などで、点呼機器のカメラ・ディスプレイを使って行う | 開設から3年経過、過去3年間に運転者の責による事故報告規則の事故がない、過去3年間に行政処分や警告を受けていない営業所 |
| 遠隔点呼 | 要件を満たす機器で、離れた場所からビデオ通話のような形で行う | 生体認証によるなりすまし防止、運転者の表情・全身を確認できる映像、記録の自動保存など。実施予定日の原則10日前までに運輸支局へ届出 |
| 業務前・業務後自動点呼 | 国土交通省の認定を受けた機器を使い、運行管理者等の立ち会いなしで行う | 認定機器の使用、実施予定日の原則10日前までに運輸支局へ届出。業務前自動点呼では運転者の平時の体温・血圧を10日分程度把握しておく |
国土交通省は遠隔点呼について2022年(令和4年)4月1日から申請の受付を始め、乗務後の自動点呼は2023年(令和5年)1月から実施できるようになったと発表しています。現在の根拠は「対面による点呼と同等の効果を有するものとして国土交通大臣が定める方法を定める告示」(令和5年国土交通省告示第266号、令和8年まで改正)です。
遠隔点呼や自動点呼だけを受けて長期間対面点呼を受けない運転者がいる場合、解釈通達は「1か月に1回以上、運行管理者が当該運転者等と対面等で会話することで健康状態を把握する」よう求めています。機械化が進んでも、運行管理者が乗務員の様子を直接確かめる仕組みは残されています。
タクシー運転手の求人をチェック
求人一覧を見るアルコールチェック|2011年5月からの検知器義務と「酒気帯び」の基準
国土交通省の自動車総合安全情報は、「平成23年5月1日より、運送事業者が運転者に対して実施することとされている点呼において、運転者の酒気帯びの有無を確認する際にアルコール検知器を使用することとしました」と説明しています。現在の運輸規則第24条第4項は、事業者がアルコール検知器を営業所ごとに備えて常時有効に保持し、酒気帯びの確認は「運転者の状態を目視等で確認するほか、当該運転者の属する営業所に備えられたアルコール検知器を用いて行わなければならない」と定めています。
解釈通達のポイントは次のとおりです。
- 基準値は問わない:「酒気帯びの有無」は、道路交通法施行令第44条の3に規定する血液中のアルコール濃度0.3mg/mLまたは呼気中のアルコール濃度0.15mg/L以上であるか否かを問わない。
- 目視等の確認:運転者の顔色、呼気の臭い、応答の声の調子などで確認する。
- 検知器の点検:毎日、電源が確実に入ることと損傷がないことを確認する。少なくとも週1回以上、酒気を帯びていない人が使って検知しないこと、洗口液などを口に噴霧したうえで使うと検知することを確認する。
- 検知器の種類:アルコールを検知するとエンジンが始動できない機能(アルコールインターロック)を持つものも含む。
同じページの「よくある質問」では、個人タクシーも検知器の使用義務の対象であること、点呼簿には検知器使用の有無と酒気帯びの有無を書けばよく測定数値の記載は必要ないこと、点呼に使う検知器は運転者が所属する営業所のものに限ることが示されています。
会社の公式説明の例として、日本交通は採用サイトの1日の流れで「出社すると、まずアルコール検査が行われます。アルコール反応が少しでも出た場合はその日一日仕事をすることはできません」と案内しています。前日の飲酒が翌朝や出番の時間まで残っていないかは、乗務員自身が管理する必要があります。
点呼の記録と保存期間|タクシーは1年間
運輸規則第24条第5項により、事業者は点呼を行ったときに、運転者ごとに点呼を行った旨、報告・確認・指示の内容に加えて、次の事項を記録し、1年間保存しなければなりません(一般貸切旅客自動車運送事業者は電磁的記録で3年間)。
- 点呼を行った者と点呼を受けた運転者の氏名
- 事業用自動車の自動車登録番号など車両を識別できる表示
- 点呼の日時
- 点呼の方法
- その他必要な事項
解釈通達では、点呼記録は書面でも電磁的方法でも差し支えないとされています。遠隔点呼や自動点呼の場合は、機器の要件として、アルコール検知器の測定結果と測定時の静止画または動画を含む点呼結果が電磁的方法で記録され、1年間保存されることが求められています(国土交通省パンフレット)。点呼の録音・録画を90日間保存する義務は、貸切バスの事業者に課されているもので、タクシーには条文上ありません。
違反したときの行政処分|国土交通省の処分基準
点呼やアルコールチェックを怠った会社には、国土交通省の「一般乗用旅客自動車運送事業者に対する行政処分等の基準」(令和7年2月改正、4月施行)に基づいて処分が科されます。処分は事業用自動車の使用停止(日車)などで、別表第1から点呼に関わる主な項目を抜き出すと次のとおりです。
| 違反の内容 | 初違反 | 再違反 |
|---|---|---|
| 点呼の未実施(点呼が必要な100回に対して19件以下) | 警告 | 10日車 |
| 点呼の未実施(同50件以上) | 20日車 | 40日車 |
| 飲酒運転防止に係る点呼実施義務違反(酒酔い・酒気帯び運行が確認された場合) | 100日車 | 200日車 |
| 酒酔い・酒気帯び運行の業務(第21条第4項) | 100日車 | 200日車 |
| アルコール検知器の備えなし(1器もない) | 60日車 | 120日車 |
| アルコール検知器の常時有効保持義務違反 | 20日車 | 40日車 |
| 点呼記録の改ざん・不実記載 | 60日車 | 120日車 |
別表の注では、対面によらず電話で行った点呼(やむを得ない場合を除く)や、業務の開始後に行った点呼は「未実施」、アルコール検知器による酒気帯びの確認をしていない点呼は「不適切」として扱うとされています。特定地域・準特定地域では一定の違反の日車数が加重される規定もあります。
国土交通省は、使用停止の日数10日車までごとに1点の違反点数を付け、処分日前3年間の累積が50点を超えると営業所の事業停止、80点を超えると事業許可の取消しとする仕組みを説明しています。さらに処分基準では、運転者が酒酔い・酒気帯び運転を行い、事業者がそれを命じたり容認したりしていたとして公安委員会から通知があった場合、日車数の処分に加えて14日間の事業停止を付加するとしています。
乗務員から見た点呼|応募前に確認したいこと
乗務員にとって点呼は「毎回受けるもの」で、内容は法令でほぼ決まっています。会社ごとに違いが出るのは、点呼の方法や体調管理の仕組みです。面接や見学で次の点を聞いておくと、入社後の流れを想像しやすくなります。
- 点呼の方法:対面点呼か、遠隔点呼・自動点呼の機器を使っているか。車庫と営業所が離れている場合にどこで点呼を受けるか。
- 出庫前の手順:アルコール検査、日常点検、点呼の順番と、出社から出庫までの目安時間。
- 体調不良時の扱い:疲労や睡眠不足を申告したときの乗務の扱い(運輸規則第50条は申し出を運転者の義務としています)。
- 健康管理:健康診断の回数や、睡眠時無呼吸症候群などの検査の有無。詳しくはタクシー運転手の健康診断と健康起因事故で解説しています。
事故を起こした場合の会社の対応や運転者の負担はタクシーの事故対応と自己負担、勤務時間のルールはタクシーの隔日勤務で整理しています。求人はタクシードライバー求人、運行管理の仕事に関心がある場合は運行管理者の求人から探せます。
出典・一次情報
本記事の制度と数字は、次の公表資料に基づいています(いずれも2026年10月閲覧)。
- e-Gov法令検索「旅客自動車運送事業運輸規則」(昭和31年運輸省令第44号、令和7年4月1日施行の改正を反映) laws.e-gov.go.jp
- 国土交通省「旅客自動車運送事業運輸規則の解釈及び運用について」(最終改正 令和8年6月26日) mlit.go.jp(PDF)
- 国土交通省「遠隔点呼・自動点呼 解説パンフレット」(令和7年11月) mlit.go.jp(PDF)/「運行管理高度化ワーキンググループ」(関連告示・通達の一覧) mlit.go.jp
- 国土交通省「対面点呼に代わる遠隔点呼が実施できるようになります」(令和4年3月) mlit.go.jp(PDF)/報道発表「乗務後自動点呼が実施できるようになります!」(令和4年12月20日) mlit.go.jp
- 国土交通省 自動車総合安全情報「自動車運送事業におけるアルコール検知器の使用について」 mlit.go.jp
- 国土交通省「一般乗用旅客自動車運送事業者に対する行政処分等の基準について」・【別表第1】(令和7年2月改正、4月施行) 基準(PDF)・別表第1(PDF)/「行政処分の基準」 mlit.go.jp
- 日本交通 タクシー乗務員採用サイト「一日の流れ」 nihon-kotsu-recruit.jp
制度の改正について
点呼の方法に関する告示と通達は、ここ数年たびたび改正されています。本記事は閲覧日時点の公表内容に基づいています。会社ごとの点呼の運用は、応募前に面接などで確認してください。



