タクシーの賞与と退職金|結論
この記事の結論
令和7年賃金構造基本統計調査では、タクシー運転者の年間賞与その他特別給与額は19万7,800円で、全産業平均(100万9,600円)の約5分の1です。バス運転者(59万100円)や営業用大型トラック運転者(42万9,600円)と比べても少なく、年収の約96%を毎月の給与で受け取っています。
国土交通省の懇談会資料は、月例賃金をすべて歩合給とし「賞与分、退職金分も含めて支給」するB型賃金では「退職金制度はない場合がほとんど」と説明しており、賞与や退職金の有無は会社の賃金の型で大きく変わります。
公式募集要項では、大和自動車交通・帝都自動車交通・名鉄タクシーグループが賞与年3回、阪急タクシー・日本交通(大阪)が賞与年2回、国際自動車が臨時給年3回を記載し、日の丸交通は賞与やプール金を設けず歩合給を全額毎月支給すると説明しています。退職金制度を明記しているのは大和自動車交通(勤続2年以上が対象)と阪急タクシーでした。
転職先を考えるとき、月給だけでなく「ボーナスは出るのか」「退職金はあるのか」は生活設計に関わる大事な条件です。タクシーの仕事は歩合給が中心のため、賞与や退職金の考え方が他の仕事と大きく違います。
この記事では、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(令和7年)と「就労条件総合調査」(令和5年)、国土交通省の懇談会資料、タクシー会社の公式募集要項という一次情報だけを使い、タクシーの賞与と退職金の実態と、求人で確認すべき点を整理します。
統計で見るタクシーの賞与|年19万7,800円
賃金構造基本統計調査の「年間賞与その他特別給与額」は、調査の前年1年間に支給された賞与・期末手当などの特別給与の額です。令和7年の職種別の表(企業規模10人以上・男女計)から、運転の仕事と全産業を並べました。年収に占める割合は、年間推計額(きまって支給する現金給与額×12+年間賞与)に対する本記事の計算値です。
| 職種 | 年間賞与その他特別給与額 | きまって支給する現金給与額(月) | 年収に占める賞与の割合 |
|---|---|---|---|
| タクシー運転者 | 197,800円 | 359,200円 | 約4.4% |
| バス運転者 | 590,100円 | 328,400円 | 約13.0% |
| 営業用大型貨物自動車運転者 | 429,600円 | 386,900円 | 約8.5% |
| 営業用貨物自動車運転者(大型車を除く) | 385,100円 | 341,700円 | 約8.6% |
| 全産業(全国ハイヤー・タクシー連合会の集計) | 1,009,600円 | 370,500円 | 約18.5% |
タクシー運転者の毎月の給与(35万9,200円)は全産業(37万500円)に近い水準ですが、賞与は約5分の1です。年収の差(全産業545万5,600円に対しタクシー450万8,200円)の大部分は、賞与の差で説明できる構造です。他の職種との年収全体の比較はタクシー・バス・トラックの年収比較で詳しく扱っています。
会社の規模・経験年数・地域による違い
同じ統計の表から、タクシー運転者の年間賞与その他特別給与額を区分ごとに並べます。
| 区分 | 年間賞与その他特別給与額 |
|---|---|
| 企業規模1,000人以上 | 69,100円 |
| 企業規模100〜999人 | 213,600円 |
| 企業規模10〜99人 | 184,000円 |
| 経験年数0年 | 21,900円 |
| 経験年数1〜4年 | 216,900円 |
| 経験年数5〜9年 | 287,700円 |
| 経験年数10〜14年 | 193,600円 |
| 経験年数15年以上 | 186,100円 |
| 東京都 | 97,100円 |
| 愛知県 | 283,200円 |
| 大阪府 | 225,600円 |
| 福岡県 | 371,600円 |
(企業規模は職種第1表、経験年数は職種第14表、都道府県は都道府県別第3表。いずれも令和7年)
企業規模1,000人以上のタクシー運転者の賞与が6万9,100円と最も少ないのは、毎月の給与に重心を置く賃金体系の会社が多い可能性があります(同じ規模のきまって支給する現金給与額は41万5,800円で、規模別で最も高い水準です。ただし推計労働者数は約6,870人と少なめです)。経験0年が2万1,900円と少ないのは、調査の前年に在籍していなかった人が多いためと考えられます。都道府県では東京都が9万7,100円と低く、地域によって賞与の比重が大きく違います。
なぜタクシーは賞与が少ないのか|賃金の型との関係
国土交通省の「タクシー事業における賃金システム等に関する懇談会」(2010年)の資料は、タクシー運転者の賃金体系を3つに分けて説明しています。
| 型 | 月例賃金 | 賞与・退職金 |
|---|---|---|
| A型 | 固定給が中心で、一定の営業収入(足切り)を上回った部分に歩合給が加算される | 一般産業と同様に、月例賃金のほか賞与、退職金制度がある |
| B型 | すべて歩合給 | 賞与分、退職金分も月例賃金に含めて支給。退職金制度はない場合がほとんど |
| AB型 | 営業収入に対する一定の支給率で支給 | (A型から発生したものは)賞与が営業収入に対する歩合給になる |
B型のように賞与分を毎月の歩合給に含めて払う会社では、統計上の「賞与」はほとんど出ません。また同じ資料は、B型から発生したAB型について「B型の賃金体系は月例賃金が高くなるため標準報酬額(社会保険料負担)が割高となる」ことを背景に挙げています。賞与として受け取るか、毎月の給与として受け取るかで、社会保険料のかかり方も変わるということです。保険料の仕組みはタクシー運転手の手取りで解説しています。
賞与が営業収入に連動するAB型の会社では、賞与は「売上の一部を後でまとめて受け取るもの」に近い性格になります。日の丸交通は採用ページで「歩合の一部を積み立てるいわゆる『プール金』やボーナス制度は設けておりません。そのため、毎月の売上に応じた歩合給は全額が直接支給されます」と説明しており、賞与を設けない代わりに毎月の歩合給で全額を払う考え方を示しています。歩合給の計算の型はタクシーの歩合給の計算と足切りで詳しく解説しています。
タクシー運転手の求人をチェック
求人一覧を見る会社の公表条件|賞与の回数と退職金制度
タクシー乗務員の公式募集要項・採用Q&Aに書かれている賞与と退職金の記載を並べます(2026年10月閲覧)。記載がないものは「記載なし」としており、制度がないという意味ではありません。
| 会社 | 賞与 | 退職金 |
|---|---|---|
| 大和自動車交通(東京) | 年3回(4・8・12月。北千住・府中は支給月が異なり、大和交通保谷は年2回) | 退職金制度あり(大和自動車交通北千住を除く)。採用Q&Aでは勤続年数2年以上が支給対象 |
| 帝都自動車交通(東京) | 年3回(3月・7月・12月) | 記載なし |
| 国際自動車(東京) | 臨時給 年3回 | 記載なし |
| 日本交通(東京) | タクシー乗務員の募集要項に記載なし | 記載なし |
| 日の丸交通(東京) | なし(プール金・ボーナス制度を設けず、歩合給を全額毎月支給) | 記載なし |
| 日本交通(大阪) | 年2回 | 記載なし |
| 阪急タクシー(大阪・兵庫・京都) | 年2回(モデル年収の例では賞与2回で55.2万〜57.8万円) | 退職金制度あり |
| 名鉄タクシーグループ(名古屋) | 年3回(夏・冬・春) | 記載なし |
賞与の「回数」は分かっても、金額や算定方法(固定額か、売上に連動するか)まで公表している会社はほとんどありません。阪急タクシーのモデル年収(40歳代 約620万円=平均月収47.0万円+賞与2回57.8万円)は、賞与額の目安を示した数少ない公表例です。各社の採用条件の全体は大手タクシー会社の採用条件の比較にまとめています。
退職金|運輸業・郵便業で制度がある企業は69.9%
タクシー運転者だけの退職金制度の統計は公表されていません。参考になるのは、厚生労働省「令和5年就労条件総合調査」の産業別の結果です(常用労働者30人以上の企業が対象)。
| 区分 | 退職給付(一時金・年金)制度がある企業 | うち退職一時金制度のみ | うち退職年金制度のみ | うち両制度併用 |
|---|---|---|---|---|
| 調査計(全産業) | 74.9% | 69.0% | 9.6% | 21.4% |
| 運輸業,郵便業 | 69.9% | 72.0% | 10.8% | 17.2% |
| 企業規模30〜99人 | 70.1% | 77.2% | 6.6% | 16.2% |
| 企業規模1,000人以上 | 90.1% | 25.9% | 27.0% | 47.1% |
(「うち」の3列は、制度がある企業を100とした割合)
運輸業,郵便業ではおよそ10社に3社に退職給付制度がなく、制度がある場合も一時金のみの会社が7割を超えます。この産業分類にはタクシーのほかトラック・バス・鉄道・郵便なども含まれるため、タクシー会社の実態とは一致しない点に注意が必要です。前述のとおり、B型賃金の会社では「退職金制度はない場合がほとんど」とされており、応募先がどの型かによって退職金の有無は大きく変わります。
定年と継続雇用も合わせて確認
退職金の受け取り時期や額は、定年の年齢と継続雇用の制度にも関係します。公式採用ページでは、大和自動車交通が「当社の定年は60歳ですが、健康状態などに問題がなければ最長75歳まで働くことができます」、日本交通が65歳選択定年制で定年後も定時制雇用として68歳まで、国際自動車が定年60〜65歳(選択定年制)、名鉄タクシーグループが定年65歳で再雇用制度により75歳まで、阪急タクシーが雇用継続制度(75歳到達時まで)と記載しています。60代からの働き方は60代からのタクシードライバーで解説しています。
賞与・退職金について面接で確認したいこと
- 賃金の型:固定給+歩合か、オール歩合か。賞与分を毎月の歩合に含めているか。
- 賞与の算定方法:固定額か、期間中の営業収入に連動するか。歩合の一部を積み立てて賞与に回す仕組みがあるか。
- 賞与の支給条件:入社何か月後から対象になるか、支給日に在籍している必要があるか。
- 退職金の有無と条件:制度の有無、対象となる勤続年数(大和自動車交通は2年以上と公表)、一時金か年金か。
- 年収で比べる:賞与の多い会社と、賞与がない代わりに毎月の歩合が多い会社は、月給だけでは比べられません。賞与を含めた年間の総支給額で比べます。
入社直後の給与保証はタクシーの給与保証の仕組み、求人はタクシードライバー求人、会社別には大和自動車交通・帝都自動車交通・国際自動車・阪急タクシー・名鉄交通のページから確認できます。
出典・一次情報
本記事の数字と制度は、次の公表資料に基づいています(いずれも2026年10月閲覧)。割合は公表値から本記事が計算したものです。
- 厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」一般労働者 職種(第1表・第14表)、都道府県別第3表 e-Stat(職種)・e-Stat(都道府県別)
- 一般社団法人全国ハイヤー・タクシー連合会「『令和7年賃金構造基本統計調査』によるタクシー運転者の現況」(令和8年5月、2026年10月6日付の【最新版】)第1表 taxi-japan.or.jp(PDF)
- 厚生労働省「令和5年就労条件総合調査 結果の概況」3 退職給付(一時金・年金)制度(第16表) mhlw.go.jp(PDF)
- 国土交通省 タクシー事業における賃金システム等に関する懇談会「これまでの議論の整理(案)」(2010年) mlit.go.jp(PDF)
- タクシー会社の公式採用ページ:大和自動車交通 募集要項・採用よくあるご質問/帝都自動車交通 タクシードライバー採用/国際自動車 募集要項/日本交通 募集要項/日の丸交通 採用情報/日本交通(大阪) 募集要項/阪急タクシー 募集要項/名鉄タクシーホールディングス 募集要項
数字の範囲について
賃金構造基本統計調査の賞与は企業規模10人以上の企業で働く一般労働者の平均で、額面(税・社会保険料を引く前)です。就労条件総合調査は常用労働者30人以上の企業が対象で、タクシー業だけの集計は公表されていません。会社の公表条件は閲覧日時点のもので、営業所や雇用形態によって異なる場合があります。



