タクシーの健康診断と健康起因事故|結論
この記事の結論
深夜にかかる勤務のタクシー運転手は、労働安全衛生規則により6か月以内ごとに1回の健康診断を受けることになります。
旅客自動車運送事業運輸規則は、会社に乗務員の健康状態の把握を求め、疾病・疲労・睡眠不足などで安全に運転できないおそれのある人を乗務させてはならないと定めています。
国土交通省の事故統計年報では、ハイヤー・タクシーの運転者の健康状態に起因する事案は2024年(令和6年)に67件で前年より11件増え、うち41件が接触・衝突などを伴いました。原因の疾病は心臓疾患14人、脳疾患11人、大動脈瘤及び解離8人が上位です。
国土交通省は健康管理マニュアルに加え、睡眠時無呼吸症候群(SAS)、脳血管疾患、心臓・大血管疾患、視野障害のスクリーニング検査の指針を出しており、SAS検査は2〜3年に1回、脳健診は3年に1回程度を目安としています。
タクシーは1人で長時間運転し、隔日勤務では深夜もハンドルを握ります。運転中に意識を失えば、乗客や歩行者を巻き込む事故になりかねません。そのため、タクシー会社には一般の会社より踏み込んだ健康管理が法令で求められています。
この記事では、e-Gov法令検索の労働安全衛生規則と旅客自動車運送事業運輸規則(以下「運輸規則」)、国土交通省の「自動車運送事業用自動車事故統計年報」、健康管理マニュアルと各疾病の対策ガイドライン、行政処分の基準、全国ハイヤー・タクシー連合会(全タク連)の公表資料という一次情報だけで整理します。体験談や特定の会社の評判は扱いません。
会社に義務づけられている健康管理|労働安全衛生法と運輸規則
タクシー運転手の健康管理には、すべての労働者に共通する労働安全衛生法のルールと、旅客を運ぶ事業者に課される運輸規則のルールが重なっています。
| ルール | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 定期健康診断 | 常時使用する労働者に1年以内ごとに1回、既往歴、血圧、血液検査、心電図などの項目で健康診断を行う | 労働安全衛生規則第44条 |
| 特定業務従事者の健康診断 | 「深夜業を含む業務」などに常時従事する労働者には、配置替えの際と6か月以内ごとに1回、定期に健康診断を行う(胸部エックス線検査などは1年以内ごとに1回で足りる) | 労働安全衛生規則第45条、第13条第1項第3号ヌ |
| 健康状態の把握と乗務禁止 | 乗務員の健康状態の把握に努め、疾病、疲労、睡眠不足その他の理由で安全に業務を遂行できないおそれがある乗務員を運行の業務に従事させてはならない | 運輸規則第21条第5項 |
| 点呼での確認 | 乗務前の点呼で、疾病・疲労・睡眠不足などで安全な運転ができないおそれの有無を確認する | 運輸規則第24条第1項 |
| 運転者の申し出 | 安全な運転ができないおそれがあるとき、運行中に運転を継続できないおそれがあるときは、その旨を事業者に申し出る | 運輸規則第50条 |
労働基準法は午後10時から午前5時までの労働を深夜の割増賃金の対象としています。隔日勤務や夜日勤のように深夜にかかる勤務を常に行う運転手は、年2回の健康診断を受ける前提で考えておくとよいでしょう。勤務形態ごとの違いはタクシーの夜勤と日勤の違い、隔日勤務の時間のルールはタクシーの隔日勤務で解説しています。乗務前点呼で体調がどう確認されるかはタクシーの点呼とアルコールチェックにまとめています。
健康起因事故の件数|ハイヤー・タクシーは2024年に67件
国土交通省の「自動車運送事業用自動車事故統計年報」は、自動車事故報告規則に基づく報告のうち、運転者の疾病により事業用自動車の運転を継続できなくなったものを「健康起因」として集計しています。事故に至らず乗務を中断した事案も含まれる点に注意してください。各年版の表3-6からハイヤー・タクシー(ハイ・タク)の数字を並べると次のとおりです。
| 年 | ハイ・タクの事案件数 | うち接触・衝突等を伴うもの | 全業態の事案件数 |
|---|---|---|---|
| 2017年(平成29年) | 52件 | 32件 | 298件 |
| 2018年(平成30年) | 46件 | 26件 | 363件 |
| 2019年(令和元年) | 56件 | 27件 | 327件 |
| 2020年(令和2年) | 50件 | 20件 | 286件 |
| 2021年(令和3年) | 53件 | 31件 | 288件 |
| 2022年(令和4年) | 44件 | 20件 | 313件 |
| 2023年(令和5年) | 56件 | 29件 | 418件 |
| 2024年(令和6年) | 67件 | 41件 | 398件 |
※平成30年版・令和2年版・令和4年版・令和6年版の表3-6に載る当年の値と「対前年増減数」から作成。
ハイ・タクの事案は40〜60件台で推移し、2024年は67件と表の期間で最も多くなりました。2024年は死者数19人、重傷者数17人です。国土交通省の資料(令和4年度 事業用自動車健康起因事故対策協議会)は、バスの多くが事故に至らずに乗務を中断しているのに対し、「タクシー、トラックでは約半数が事故に至っている」と指摘しています。
2024年の疾病別の内訳(ハイ・タク)
令和6年版の表3-7によると、ハイ・タクの67人の内訳は、心臓疾患14人(うち心筋梗塞8人)、脳疾患11人、大動脈瘤及び解離8人、失神6人、神経系疾患4人(うち睡眠時無呼吸症候群1人)、不明7人などです。疾病で死亡した運転者は18人で、心臓疾患5人、大動脈瘤及び解離7人が多くを占めます。
同年報は、タクシー運転者全体の平均年齢を60.2歳(厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」)と紹介しています。平成30年版は、健康状態に起因する事案について「ハイ・タクは65歳以上で当該事案が多く発生」と記載しています。事故全体の件数はタクシー運転手はきついのか、高齢運転者向けの適齢診断は60代のタクシー運転手で扱っています。
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求人一覧を見る国土交通省の健康管理マニュアル|「義務」と「推奨」
国土交通省の「事業用自動車の運転者の健康管理マニュアル」(平成22年7月策定、平成26年4月改訂)は、事業者が行う健康管理を「義務」と「推奨」に分けて示しています。
- 定期健康診断の結果を踏まえた健康状態の把握(義務):健康診断は1年以内ごとに1回、深夜業に従事する人は6か月以内ごとに1回以上。異常の所見があれば、医師から乗務の可否や配慮事項について意見を聴く。要再検査・要精密検査・要治療の所見があれば、医師の診断などを受けさせる。
- 一定の病気等の前兆や自覚症状による把握(義務):脳・心臓疾患、てんかん、再発性の失神、無自覚性の低血糖症、重度の眠気の症状を呈する睡眠障害、認知症などについて、前兆や自覚症状を確認する。
- 主要疾病のスクリーニング検査(推奨):SAS、脳血管疾患、心臓疾患などの検査で、自覚症状のない病気を見つける。
マニュアルは、医師に意見を求める際に、運転業務が「単独作業」で「勤務が不規則」であるという特徴を説明するよう求めています。健康診断で「要精密検査」と書かれた結果を放置しないことが、会社と運転者の双方に求められているということです。
スクリーニング検査の指針|SAS・脳・心臓・視野
国土交通省は疾病ごとに対策マニュアル・ガイドラインを公表しています。検査の対象や頻度の目安は次のとおりです。
| 資料 | 主な検査 | 対象・頻度の目安 |
|---|---|---|
| 睡眠時無呼吸症候群(SAS)対策マニュアル(令和7年7月) | パルスオキシメトリ法やフローセンサ法による自宅での簡易検査 | 基本は運転者全員。頻度は2〜3年に1回が目安で、雇い入れ時や体重が急に増えたときにも勧める。CPAPなどで治療中で状態が良好な人は対象外でよい |
| 脳血管疾患対策ガイドライン(平成30年2月) | 脳ドック、または頭部MRI・MRA検査のみの脳MRI健診 | 中・高齢者や高血圧・糖尿病・喫煙などの危険因子がある人を優先。結果が正常でも3年に1回程度を目安に受診。費用の目安は脳ドック5〜6万円程度、脳MRI健診2万円程度 |
| 心臓疾患・大血管疾患対策ガイドライン(令和元年7月) | 心電図、ホルター心電図、運動負荷心電図、頸動脈や心臓の超音波検査など | 健康診断の結果などから医師が必要と判断した検査を受ける(保険診療)。定期健診で省略できる年齢の人も、心電図はできるだけ実施するのが望ましい |
| 視野障害対策マニュアル(令和4年3月) | 眼科健診(視力・眼底・眼圧・視野検査など)、クロックチャートによる簡易チェック | 運転者全員、または緑内障などのリスクが高まる40歳以上を対象に一律受診が望ましい |
SASのマニュアルは、社内規程の例として「SASを理由に不平等な扱いはしない」「乗務可否は、専門医、産業医、管理者、運転者の意見を参考に総合的に判断する」ことを挙げ、診断を受けた運転者には治療開始までの間、負担のない勤務スケジュールに変えるなどの対応を求めています。視野障害のマニュアルは、緑内障の有病率が40歳以上の日本人で約5%とする日本緑内障学会の調査を引用し、自覚しにくい病気であることを強調しています。
健康診断を受けさせない会社への行政処分
国土交通省の「一般乗用旅客自動車運送事業者に対する行政処分等の基準」(令和7年2月改正、4月施行)の別表第1は、運輸規則第21条第5項の違反を次のように定めています。
| 違反の内容 | 初違反 | 再違反 |
|---|---|---|
| 疾病のおそれのある運行の業務(健診の未受診者1名) | 警告 | 10日車 |
| 同(未受診者2名) | 20日車 | 40日車 |
| 同(未受診者3名以上) | 15日車×未受診者数 | 30日車×未受診者数 |
| 未受診者による健康起因事故が発生したもの | 40日車 | 80日車 |
| 疾病、疲労等による運行の業務 | 80日車 | 160日車 |
別表の注では、「疾病のおそれのある運行の業務」を「過去1年以内に法定の健康診断を受診させていない状態で運行の業務に従事させること」と定義しています。健康起因事故の項目は、運転者が脳疾患・心臓疾患・意識喪失を発症して負傷者が出た重大事故等で、健診を受けさせていなかった場合や、脳・心臓疾患などを疑う要再検査・要精密検査・要治療の所見があるのに再検査を受けさせずに乗務させていた場合に適用されます。
業界の取組みと、求人を選ぶときの確認点
全タク連は「ハイタク事業における総合安全プラン」(令和3年3月30日)で、健康状態に起因する事故件数(個人タクシーを含む)が平成25年の39件から令和元年には56件になったとし、対策として次の項目を掲げています。
- 定期健康診断の確実な受診と、有所見者に対するフォローアップ
- SAS、脳血管疾患、心臓疾患・大血管疾患のスクリーニング検査ガイドラインの周知と積極的受診
- 健康管理マニュアルに則った乗務員の健康状態の把握
- ストレスチェック、メンタルヘルスによる健康障害防止対策
- 視野障害に関する運転リスクの周知と、スクリーニング検査や眼科での視野検査受診の推奨
同プランは、スクリーニング検査で所見ありとされた運転者に「事業者が適切なフォローを実施しなかった事案も発生している」とも記しています。応募する側としては、面接で次の点を確かめておくと安心です。
- 健康診断の回数と、勤務時間内に受けられるか
- SAS検査、脳ドック・脳MRI健診、眼科健診を会社として実施しているか、費用の負担はどうなるか
- 健康診断で再検査となったときの乗務の扱いと受診の段取り
- 体調不良を申告したときの勤務の扱い、日勤への切り替えの可否
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出典・一次情報
本記事の制度と数字は、次の公表資料に基づいています(いずれも2026年10月閲覧)。
- e-Gov法令検索「労働安全衛生規則」 laws.e-gov.go.jp/「旅客自動車運送事業運輸規則」 laws.e-gov.go.jp/「労働基準法」 laws.e-gov.go.jp
- 国土交通省「自動車運送事業用自動車事故統計年報(令和6年)[第2分冊]」(令和8年3月) mlit.go.jp(PDF)/同(令和4年) PDF・(令和2年) PDF・(平成30年) PDF
- 国土交通省「健康起因事故発生状況と健康起因事故防止のための取組について」(令和4年度 事業用自動車健康起因事故対策協議会 資料1) mlit.go.jp(PDF)
- 国土交通省「事業用自動車の運転者の健康管理マニュアル」(平成26年4月改訂) mlit.go.jp(PDF)/健康管理関係マニュアル一覧 mlit.go.jp
- 国土交通省「自動車運送事業者における睡眠時無呼吸症候群対策マニュアル」(令和7年7月) PDF/「脳血管疾患対策ガイドライン」(平成30年2月) PDF/「心臓疾患・大血管疾患対策ガイドライン」(令和元年7月) PDF/「視野障害対策マニュアル」(令和4年3月) PDF
- 国土交通省【別表第1】一般乗用旅客自動車運送事業者に対する違反事項ごとの行政処分等の基準(令和7年2月改正、4月施行) mlit.go.jp(PDF)
- 一般社団法人全国ハイヤー・タクシー連合会「ハイタク事業における総合安全プラン」(令和3年3月30日) taxi-japan.or.jp(PDF)
この記事の範囲について
本記事は制度と統計の解説で、医学的な助言ではありません。健康診断の結果や体調の不安は、医師や会社の産業医に相談してください。会社ごとの健康管理の内容は公表されていない場合が多いため、応募前に面接などで確認してください。




