タクシーの新人研修の内容|結論

この記事の結論

タクシーの新人研修は、法令で会社に義務づけられた「初任運転者への特別な指導(6時間以上)」と「初任診断」に、会社独自の接客・地理・営業の研修を足したものです。
国土交通省の告示(第1676号)は、タクシーの初任運転者に対し、法令・車両の構造と日常点検・旅客の安全・危険の予測と回避・安全装置の使い方の5項目を合計6時間以上、運転者に選任する前に指導するよう定めています。
東京23区・武蔵野市・三鷹市で乗務するには、さらに東京タクシーセンターの新規講習(3日間・1時限40分・法令/地理/安全/接遇)を修了して運転者登録を受ける必要があります。
大手の公式採用ページでは、国際自動車が入社時研修1か月+営業所OJT2週間、日の丸交通・帝都自動車交通が約2か月(帝都は「約2ヶ月弱」)、日本交通が教習14日間を含む4段階の日程を公表しています。

「タクシー会社の研修では何をするのか」「何日くらいで乗務できるのか」は、応募前に多くの人が気にする点です。実は新人研修の中身の一部は、会社が自由に決めているのではなく、旅客自動車運送事業運輸規則と国土交通省の告示で項目と時間が決められています。

この記事では、国土交通省の告示・e-Govの法令・東京タクシーセンター・各社の公式採用ページという一次情報だけを使い、法律で決まっている研修と会社ごとの研修を分けて整理します。二種免許の取り方は二種免許の養成制度、接客や地理への不安への各社の答えは未経験からタクシー運転手になるにはにまとめています。

新人研修の全体像|法令で決まっている部分と会社独自の部分

一種免許で入社した未経験者が乗務を始めるまでに受けるものを、根拠ごとに分けると次のようになります。

区分中身根拠対象
二種免許の取得教習所での学科・技能教習と試験場での学科試験道路交通法二種免許を持っていない人
初任運転者への特別な指導5項目を合計6時間以上(安全運転の実技は可能な限り)旅客自動車運送事業運輸規則第38条第2項、国土交通省告示第1676号新たに雇い入れた運転者(過去3年以内にタクシー運転者として選任された人を除く)
初任診断国土交通大臣が認定した適性診断同上新たに雇い入れた運転者(過去3年以内に受診した人を除く)
一般的な指導監督11項目を毎年運輸規則第38条第1項、同告示すべての運転者
運転者登録の講習(・試験)法令・安全・接遇・地理の講習。指定地域では試験の合格も必要タクシー業務適正化特別措置法第7条法人タクシーの運転者
会社独自の研修接客、地理、配車アプリやメーターの操作、営業ノウハウ、同乗指導など各社の規定会社ごとに異なる

運輸規則第38条第2項は、旅客自動車運送事業者に対し、「運転者として新たに雇い入れた者」などに「国土交通大臣が告示で定めるところにより」特別な指導を行い、かつ国土交通大臣の認定を受けた適性診断を受けさせなければならないと定めています。つまり、どの会社に入っても、この2つは乗務前に必ず受けることになります。

初任運転者に対する特別な指導|タクシーは5項目で合計6時間以上

国土交通省告示「旅客自動車運送事業者が事業用自動車の運転者に対して行う指導及び監督の指針」(平成13年国土交通省告示第1676号)の第二章が、初任運転者への指導の中身を定めています。国土交通省のページでは、旅客の指針の最新の改正は平成30年6月1日公布のものです。タクシー(告示では「貸切バス以外の一般旅客自動車」に含まれます)の運転者に必要な内容と時間は次のとおりです。

項目告示に書かれている内容(要約)タクシーの時間
① 安全な運転に関する基本的事項道路運送法その他の法令で運転者が守るべき事項と交通ルールを理解させ、安全運転の基本的な心構えを習得させる①〜⑤で合計6時間以上
② 構造上の特性と日常点検の方法事業用自動車の基本的な構造と装置の概要を理解させ、日常点検の方法を指導する
③ 運行の安全と旅客の安全のための留意事項事業の態様や乗務の状況に応じ、シートベルトの着用の徹底など旅客の安全確保の留意点を指導する
④ 危険の予測及び回避道路・交通・旅客の状況に含まれる主な危険を理解させ、それを回避する運転方法を指導する
⑤ 安全性の向上を図る装置を備えた車の運転方法安全装置の機能への過信や誤った使い方が事故の要因になることを説明し、適切な運転方法を理解させる
⑦ 安全運転の実技実際に運行する可能性のある経路で、実際に運転する車と同じ車種区分の車を運転させ、添乗等で指導する可能な限り実施することが望ましい

⑥(ドライブレコーダーの記録を使った運転特性の把握)は貸切バスだけの項目です。貸切バスの初任運転者は①〜⑥を合計10時間以上、⑦を20時間以上と、タクシーよりかなり長く定められています。

指導の時期は「運転者に選任される前」

告示は初任運転者への指導の実施時期を「当該旅客自動車運送事業者において初めて当該事業の事業用自動車の運転者に選任される前に実施する」としています。また、運転者が自分の技能と知識の程度を把握できるよう、適性診断の結果も踏まえて「運転者と話し合いをしつつきめ細かな指導を実施することが必要」で、指導の終わりに安全運転の心構えについてのレポートを書かせるなどして効果を確かめることが望ましい、とも書かれています。指導した年月日と内容は、運輸規則第37条の乗務員台帳に記載(または内容を書いた書面を添付)することになっています。

「初任運転者」に当たる人・当たらない人

告示でいう初任運転者は、その会社で新たに雇い入れた運転者(またはバスなど他の種類の事業から初めてタクシーの運転者に選任される人)のうち、雇入れ(選任)の日前3年間に、他の事業者で同じ種類の事業(タクシーならタクシー)の運転者として選任されたことがない人です。言い換えると、直近3年以内に別のタクシー会社で乗務していた人は、転職しても告示上の初任運転者には当たりません。

入社後は毎年「一般的な指導監督」が続く

告示の第一章は、すべての運転者に対する指導監督を「毎年実施」し、日時・場所・内容と指導者・受講者を記録して営業所で3年間保存するよう定めています。内容は、事業用自動車を運転する場合の心構え、遵守すべき基本的事項、構造上の特性、乗車中の旅客の安全、乗降時の安全、営業区域の道路と交通の状況、危険の予測と回避・緊急時の対応、運転適性に応じた安全運転、生理的・心理的要因と対処方法、健康管理、安全装置を備えた車の運転方法の11項目です。タクシーについては「営業区域における主な道路及び交通の状況をあらかじめ把握させる」ことが明記されています。国土交通省はこの指導用に、タクシー版の安全教育マニュアル(令和6年3月29日改訂)を公開しています。

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初任診断|選任前に受ける国土交通大臣認定の適性診断

指導とセットで義務づけられているのが初任診断です。告示は、新たに雇い入れた運転者に「事業用自動車の運転者として選任する前に初任診断を受診させる」と定めています(雇入れの日前3年間に初任診断を受けたことがある人と、個人タクシー事業者は除かれます)。

独立行政法人自動車事故対策機構(ナスバ)の案内では、初任診断の手数料は4,800円(税込)、診断時間はナスバネットで実施した場合で約1時間40分です。大手の研修日程にも組み込まれており、日本交通は研修スケジュールに「事故対策機構」、日の丸交通は「自動車事故対策機構にて研修」と書き、帝都自動車交通は基礎研修の中に適性診断を挙げています。測定項目や受け方、65歳以上の適齢診断との違いはタクシーの適性診断・初任診断とはで詳しく解説しています。

東京で乗務する場合|東京タクシーセンターの新規講習3日間

タクシー業務適正化特別措置法は、タクシー運転者の登録を受ける要件として、国土交通省令で定める「輸送の安全及び利用者の利便の確保に関する講習」を修了していること(第7条第1項第3号)、指定地域では運転の経歴があるか試験に合格していること(同第4号)を定めています。東京特定指定地域(特別区、武蔵野市、三鷹市)の法人タクシー運転者は、東京タクシーセンターに登録して運転者証の交付を受け、車内に表示しなければ営業できません。

東京タクシーセンターの新規講習は「東京指定地域内で新たに運転者になろうとする方に対する講習」で、期間3日・9時〜17時、費用は通所2,200円・オンライン1,650円(税込)です。同センターが公開している「新規講習カリキュラム」(1時限40分)の構成は次のとおりです。

日時限・内容
1日目法令1〜3、地理1〜4、安全1(8時限)
2日目安全2〜4、接遇1〜5(8時限。接遇3〜5はバリアフリー対応)
3日目午前に輸送の安全及び利用者の利便の確保に関する試験と合格発表。午後に接遇6・7(バリアフリー対応・車いす等の実技)、地理の効果測定、講習修了証の交付

地理の効果測定は、講習で使う地理教本から10問を〇×方式で出題し、正答率70%以上で修了、60%以上70%未満は補講を受けて修了、60%未満は補講のあと再効果測定とされています。オンライン新規講習は、3日間のうち試験と効果測定などを除く2日間を、タクシー会社の会議室などでZoomのライブ配信で受ける形で、実施できるのは同センターに「オンライン講習事業所」として登録した事業者です。日の丸交通は研修の流れに「タクシーセンター講習 オンライン講習2日と現地講習1日の計3日間」と記載しています。

試験の出題数や合格基準、2024年2月の地理試験廃止の経緯はタクシーの地理試験廃止とその後で解説しています。

会社が任意で受けさせる新人向け研修

東京タクシーセンターは法人事業者向けに、新規講習のほか任意の研修も行っています。「新人地理基礎研修」(1日・4,500円)は、2024年2月29日の地理科目試験廃止を受けて事業者から新人の地理知識の低下を懸念する声があったことから設けられ、幹線道路・主要交差点・主要施設・首都高速道路の路線と出入口・主要ターミナルの営業方法・銀座乗車禁止地区などを動画も使って学びます。「新人特別接遇研修」(1日・2,200円)は、2022年5月13日の改正道路交通法で二種免許の受験資格が19歳以上・普通免許等1年以上に緩和されたことを受け、若い世代向けに外部講師が傾聴やクレーム対応、タクシー運転手の心構えなどを教える内容です。

大手5社の研修日程|公式採用ページの公表内容

会社独自の研修は、期間も内容も会社ごとに違います。東京の大手5社が公式採用ページで公表している内容を、書かれているとおりに並べます(2026年10月閲覧)。各社とも未経験者向けで、二種免許の取得期間を含みます。

会社公表されている期間研修の流れ(公表どおり)
日本交通4段階の日程を公表(経験者は入社後10日間で研修終了)契約の公認教習所で学科・技能教習(14日間)、第二種免許取得(1日間)、新人乗務員講習・営業所内教習・事故対策機構(10日間)、班長(ベテラン乗務員)による同乗指導(2日間)
国際自動車(kmタクシー)最大約2か月。入社時研修1か月+営業所OJT2週間初日にコンプライアンス体制とタクシー関連のルール、2〜7日目にホスピタリティ研修、8〜15日目に二種免許取得、16〜22日目に応用研修(地理・メーター機器取扱い・エコドライブ・実習)、23〜26日目に路上実習。配属2か月後に本採用前フォローアップ研修(1日)
大和自動車交通研修期間は月〜金の9時〜17時(休憩1時間)。経験者は最短10日間研修カリキュラムに車両点検を含む。デビュー後にフォローアップ研修・接客接遇研修・地理勉強会
日の丸交通約2か月。研修日数に上限を設けない地理講習、タクシーセンター講習(計3日間)、提携ドライビングスクールでの教習、二種学科試験、自動車事故対策機構での研修、基本実務研修(配車アプリ・無線の使い方など)、路上教習、添乗教習、役員面接、全体修了証書授与
帝都自動車交通約2か月弱(研修期間中=入社後1か月の勤務時間は7時30分〜16時30分)二種免許取得、地理研修、交通マナーや事故・トラブル防止の研修、接客接遇研修、適性診断、教習車での実践練習。その後、営業所の主任運転手が同乗して指導し、正式配属。配属後も月1〜2回程度の勉強会、3年に1回程度の接客接遇研修

各社の日程を見ると、法令で決まった初任運転者への指導と初任診断、東京ではタクシーセンターの新規講習が、二種免許の取得と会社独自の研修の間に組み込まれていることが分かります。研修中の給与や二種免許の費用負担の条件は、二種免許の養成制度で各社を比較しています。

デビュー直後は「同乗指導」が共通

5社のうち4社が、一人で乗務を始める前後にベテランが同乗する仕組みを公表しています。日本交通は「営業所に配属されてからは、ベテランの班長が必ず同乗して指導」、帝都自動車交通は「営業所の主任運転手が必ず同乗」、日の丸交通は「営業所のベテランドライバーが同乗し、実際にお客様を乗せて営業」したうえで合格なら独り立ち、国際自動車は営業所でのO.J.T(2週間)としています。告示が「可能な限り実施することが望ましい」とする⑦安全運転の実技(添乗等による指導)に近い形です。

経験者の研修が短い理由|「初任運転者」の3年ルール

日本交通は採用Q&Aで「経験者の方は入社後、10日間で研修が終わる」、大和自動車交通は「最短10日間の研修」でデビューできると案内しており、未経験者より大幅に短くなっています。

法令の面では、前に書いたとおり、雇入れの日前3年間に他社でタクシー運転者として選任されていた人は告示上の初任運転者に当たらず、雇入れの日前3年間に初任診断を受けている人は初任診断も不要です。すでに二種免許を持っていれば教習所の期間もかかりません。ただし、東京で乗務する場合の運転者登録は別の制度で、東京タクシーセンターの案内では、申請前2年以内に東京特定指定地域で90日以上のタクシーまたはハイヤーの経歴がある場合は運転経歴書を、そうでない場合は試験の合格証の写しを提出します。ブランクがある人や他の地域から来る人は、講習と試験を受け直す前提で日程を確認してください。

応募前・面接で確認したいこと

法令で決まった部分はどの会社でも受けますが、それ以外は会社ごとに違います。次の点を募集要項と面接で確認すると、入社後のギャップを減らせます。

  1. 研修の期間と勤務時間:何日(何か月)で、何時から何時まで、土日は休みか。
  2. 研修の場所:自社の研修センターか、提携の教習所や外部機関か。
  3. 法定の指導と初任診断の時期:いつ、どこで受けるか。受診料を誰が負担するか(公表資料には負担の決まりがないため、会社の規定による)。
  4. 同乗指導の有無と回数:一人で乗務を始める前に、ベテランが同乗する期間があるか。
  5. デビュー後の研修:フォローアップ研修や勉強会の頻度。
  6. 研修中の給与と、二種免許の費用負担の条件:日給の額と、退職時の費用返還の規定。

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出典・一次情報

本記事の制度と数字は、次の公表資料に基づいています(いずれも2026年10月14日閲覧)。

研修内容の変更について

各社の研修期間・内容と東京タクシーセンターの講習費用は閲覧日時点の公表内容です。営業所や入社時期によって異なる場合があるため、応募前に最新の募集要項と面接で確認してください。